製材所:三枝康弘さん

TSウッドハウス

三枝林業専務取締役/TSウッドハウス協同組合

三枝康弘(さいぐさ・やすひろ)さん

profile

1972年生まれ。大学の農学部林学科で林業経営を学んだ後、帰郷。TSウッドハウス協同組合の同世代の仲間と共に、研究機関と連携して杉の成分を研究・分析して数値化する試みや、新しい販路開拓にも取り組んでいる。趣味はホルン演奏。今も徳島市の吹奏楽団に所属し、コンサートにも参加している。


製品の質にこだわりながら、数値でその良さを証明しています

※敷地内に自然乾燥の材木がたくさん積まれた、那賀川に面した事務所で伺いました。

TSウッドハウス大学では林学科を専攻していましたが、山に入って、調査プロットを設定して、対象木の胸高直径や樹高を測定したり、そのデータを解析したりというフィールドワークが中心でした。根を詰めて勉強するのが苦手な自分に合っていて面白かったですね。帰郷して実家を手伝おうと思ったのは、先祖代々続いてきたものを引き継がなければ、という義務感が大きかったです。でも、当時は意識していませんでしたが、今から考えると、小さいときから現場が身近にあって、当たり前に林業や製材業に接してきたことも大きかったんでしょうね。

現在の主な仕事の一つは丸太の選別です。この木はこの部分をこう使おうと、自分の目で判断して梁桁や柱、内装材など、用途によって丸太を選び分けます。思ったような製品が取れるとすごく楽しい。逆に、思ったようにならなかった時は、悔しいし、まだまだ勉強不足だなと思います。判断を間違うと、せっかくの立派な丸太を無駄にしてしまう可能性もあるわけで、無垢の木材製品を作る仕事は、自分の判断が製品にダイレクトに反映されるのが面白いですね。

TS・長さ8mの特注品僕が帰郷した当時、TSウッドハウス協同組合(以下、TS)が立ち上がって3年目でした。三枝林業もTSのメンバーでしたので、僕もすぐTSに関わるようになりました。最初はここでやっていることが当たり前だと思っていたんですが、いろいろな方と接していくうちに、TSは特殊なものづくりをしているということが分かってきました。例えば、1ヘクタール分の山林の杉を伐採して丸太を準備しても、その中で、最終的に2~3割しかTSの名前で出せる製品にならない。そういった厳しい選別をする、ポリシーのある組合なんです。

TSはもともと、林業家が「自分たちの山で育てた木を自分たちが納得できる使い方をしていただこう。そして山を育成して後世に残していけるだけの対価をいただこう」ということを目指して立ち上がった組合です。「これは良い木だ」と自信を持って送り出しても、買われた先で、構造材が全く見えない「大壁工法」の家の材料になってしまっては、せっかく手塩にかけて80年90年と育ててきたものが活かされない。この木をちゃんと見せるような使い方をしたいと立ち上がったわけですし、また、それなりの対価をいただくことも目的としていますから、品質は譲れないし、そこを揺るがしてしまうと、大元が崩れてしまいますよね。

TSのこだわりのひとつに自然乾燥があります。自然な状態でゆっくり乾かすので、色艶や香りといった杉の良さや成分が全て残ります。「桟積み乾燥」と言いますが、風通しを良くするために、製品を置き、桟を置き、また製品を置き、そうやって積み上げていく。そして、まずは風雨にさらします。最初は雨に濡らした方が、乾燥が早く進むんです。その後、ある程度乾燥が進むと屋根の下に移動させて出荷を待ちます。サイズにもよりますが、構造材だと、少なくとも3ヶ月から、長い場合は1年以上かけて乾燥させます。

ただ、乾燥すればそれがそのまま商品になるというわけではないんです。杉に限ったことではないでしょうが、木にはそれぞれクセがあって、最初のノコの入れ方を間違うと、大きく反ったりねじれたりして製品にそのクセが出てしまう。木取りを間違えずに製材して、まっすぐな製品が取れたとしても、桟積み乾燥している間に、残ったクセがジワジワと出てくることもあります。また、乾燥が進んで水分が無くなることで、ひずみが生じて割れが発生します。片面で収まっている割れなら強度に問題が無いことは実験でデータを得ているんですが、製品の断面を貫通するような割れや、大工さんの切り組みに影響するような反りやねじれがある場合は、例えば6m材の両端から50㎝ずつ切って、5m材にするなどの対応をとる。こういったロスもあります。

TS・自然乾燥木を選ぶときに考えるのは、まず色の良さです。「赤身」というだけあって、杉の心材は通常きれいな赤もしくはピンク色をしているんですが、中には黒ずんだものも出てきます。「黒心材」と言うんですが、黒いとどうしても見栄えが悪いし、実際敬遠されるので、そういった丸太は除外します。また、構造材を製材する場合には年輪幅が大事です。構造材の断面の四隅、あるいは上下両端の部分の年輪が詰まっているように木取りができるかどうか。それには「適寸」つまり、適当な大きさの丸太を選別する必要もあります。大きな直径の丸太で小さな寸の製品を取ったのでは、外側の年輪の詰まった強度のある部分が活かされない。だから適寸を見るのが大事なんです。

ノコにも2㎜とか3㎜の厚みがあって、製材するということは、その厚みの分も削るということですので、ノコを通せば通すほど、出来る製品は小さく、少なくなる。つまり歩留まりが悪くなります。歩留まりを下げないために、いかにノコを通す回数を減らして製材できるか。「この丸太だったら、主製品の他に何が取れるか」と考え判断するのも大事なポイントです。主製品以外の部分は、厚さや巾によって何になるかはいろいろです。厚さが45㎜あれば、寸五角という屋根の垂木材になるし、30㎜なら間柱という材になる。薄いものなら壁の板や、屋根の下地板になる。もっと小さいものなら、かまぼこ板やウニの箱とかにも使っていただいています。できるだけ、使っていただける工夫をして、どうしてもダメな場合はチップに砕いて、紙の材料、パルプにしています。

杉を家に使って一番良いのは「安らぐ」ということでしょうか。杉には安眠を促す香り成分があって、杉に囲まれた部屋では平均3分早く眠りにつけたという実験の報告を見たことがあります。それから、色合いが優しくて目が休まる。また、杉自体が湿気を吸ったり吐いたりする調湿能力を持っていて、年間を通して室内の湿度に大きな差が出ない。柱1本でビール瓶1本分の水分を出したり吸ったりするとも聞きます。こういう材料の良さを、数値で出していくのは大事なことですよね。

TSの前身は「徳島林業クラブ青年部」という団体なのですが、その時代、今から30年ほども前に、森林総合研究所というつくば市の研究所まで、自分たちの杉製品を持ち込んで実験をしてもらったことがあるそうです。梁材に、裂けるまで上から圧力をかける「実大強度試験」というものですね。「杉は弱いと言われるけどそんなことは無いはずだから、自分たちの杉で実験して欲しい」と、徳島から100本ほどを持ち込んだそうで、結果、建築基準法で決められていたよりずっと高い数値が出た。そういう実験をしてデータを出しているので、自分たちの製品に自信を持っていられます。

TS・台車でノコを入れる様子TSになってからも多くの実験をしています。杉の赤身の製品はシロアリに強いとされ、昔から家の土台などに使われてきましたが、きっとそういう成分があるからだろうと考え、分析して明らかにしようと、徳島大学や徳島文理大学の化学系の教授の方々に協力を仰ぎました。その結果、シロアリに強い抗力を持つ成分を特定できました。さらに実験を進めることで、赤身、特に黒心材には、黄色ブドウ球菌の増殖を抑えたり、大腸菌を1時間でほぼ死滅させるような強い抗菌・殺菌作用を持つ成分がある、という実験結果も得ています。また、杉は音を響かせるのでマンションなどの内装には向かないのではないか、と言われることに対しては、それならどんな使い方をすれば内装にも向くのかと、徳島県立工業技術センターと協力して実験し、音が響かない工法の提案もしている。実験好きというわけではないけど、けっこうアクティブに、いろいろ結果を出しているんです。

他にも、癒しや香りの成分分析もして、ある程度の結果は得ています。こういう結果を少しずつでも、仕事に活かしていかなければと思っています。大工さんの経験はすごく貴重で大事なんですが、「昔からこうやって建ててきて、80年経ってもしゃんとしてるだろ?」と言っても、「実証データをいただけますか?」となって出せなければ認められない、だったら数値を出してやろうじゃないか、というモチベーション。それがTSの大きな特徴だと思います。

他の建材とただ真っ向勝負するのではなくて、杉独自の良さがあるんだということを、数値で表すなどしてしっかり伝えたいですね。今は当時のメンバーの子ども世代が僕も含め何人かいて、TSの外でも「徳島すぎクラブNEXT」という組織を作って活動しています。同世代でそういう話ができて、相談しながら活動していけるのは、心強いしありがたいです。

こういった仕事をしていない人にとっては、集成材も無垢材も同じものなのかもしれないし、外材も国産材も同じ木材でしょ?という意見もあるかもしれない。いかに良さを伝えて「それだったら無垢の国産材で家を建てよう」と思っていただけるか。大きなハウスメーカーのコマーシャルパワーはすごいですが、その宣伝力、発信力は学び、活かす必要がある。ものづくりにはこだわってきたけど、作ったものを売る力がまだまだ弱い、それがこれからの課題なんでしょうね。林業に明るい未来が来るかどうか、まだまだ、これからの努力次第です。


三枝さんが所属しているのは・・・

TSウッドハウス(協)

TSウッドハウス(協)

良質の徳島すぎを構造材として使用したTSウッドハウスの家。山と木を愛する専業林家の視点から日本の住宅を見つめます。

建築家、製材会社、大工のネットワークを使った家づくりを進めています。

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